シアター・コクーンで、仲代のファルスタッフで、無名塾が公演した”ウインザーの陽気な女房達(シェクスピア)”を楽しんだ日、ロビーで買ったのが、この本。
私にとっては、仲代の舞台鑑賞は、そう多くはないが、やはり、小林正樹や黒沢明の映画で、そして、NHKテレビで観た、映像俳優としての仲代達矢の印象の方が強烈であるが、本当の仲代の役者としての本領は、妻宮崎恭子と生きる証として築き上げた無名塾との舞台で発揮されるのであろう。この本を読んで、強烈に、そう思った。
この本は、”結核というハンディを背負っている、学歴もなく、実績もなく、役者としての才能も全く未知数の”売れない役者に、恋をし人生を捧げた最愛の妻への鎮魂歌でもあるが、二人三脚で歩いた二人の波瀾万丈の人生と激しい芸術への情熱が胸を打つ。NHKの「心の旅」で、英国最南東端のランズエンドの海に突出したミナック・シアターで仲代にシェクスピアの一くさりを演じさせていた元気な頃の宮崎恭子を思い出しながら読んだ。
この本には、宮崎恭子との生活以外にも、仲代自身の生い立ち、思い出の記もあり、貧しかった幼き頃からの心象風景も含めて語られていて、人間仲代達矢の実像が浮かび上がってくる。シェクスピア劇等のヨーロッパ劇も、新世界のアメリカ劇も、そして、現代劇も時代劇も、どんなドラマを演じさせても格調の高い舞台を作り上げてゆく希有な大型俳優の姿が清々しい。