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時が滲む朝 楊逸
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時が滲む朝


楊 逸

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中国人が書いた日本語小説というジャンル        時が滲む朝
なんか変だなぁと思いながら読んでいた。
この本の背景を知らず、翻訳小説だと思っていたからだ。

あらすじみたいな表現ではあるが、
純情な中国青年には共感させられ
テレサ・テン、尾崎豊、香港返還、北京オリンピックというキーワードで
この辺の時代の中国知識人の考え方や行動を知ることができ、
ニュースで知る中国人との違いが分かった。

「黄雄餃子館」に集まり皆で愚痴るシーンが一番好きだ。
(中国餃子にはいろいろあったが)餃子が食べたくなる。




こなれてないのが味わいに        時が滲む朝
ものめずらしさから読んでみた。中国の民主化要求の大波に対し、同じ中国人でもそうした政治的なことより現実生活を優先させる人も多かったことや、逆に10年の月日を経ても民主化にこだわるあまり生活に破綻をきたす人もいたことなど、いわば民主化へのかかわりの温度差や意識の変化などをミクロな視点から描いた小説。つまらなくはないが、強烈に面白いわけでもない。テーマを考えればページが足りなすぎ、話の展開が不自然にはやいのは残念。ストーリーのおもしろさを求める人は途中でいやになるかも。

だが程ほどにゴツゴツした文の肌触りはわたしは嫌いではない。文法的に正しくても、「日本語を母語としている人ならこうは言わないだろう」といういいまわしも多々あり、これは楽しい違和感だった(著者についての予備知識がそういう目にさせた面はあるにせよ)。現代の日本ではありえないウブな会話もあった。主人公らどの学生も学問に熱心なのが当然な空気であり、今の日本ではありえない一昔の風景のようでこれもおもしろかった。
芥川賞とブンガクの劣化、ここに極まる        時が滲む朝
石原慎太郎が本作を「風俗小説」と批評していた意味が、読中にわかった。確かにこの小説は所謂「純文学」ではない。それが純文学の新人賞たる芥川賞とは、これ如何に?
純文学と通俗小説の境界は基より曖昧模糊になりつつあり、それ自体には目をつぶるとしよう。だが、この小説の場合は肝腎の内容もブンガクというよりは単なるクロニクルと言ってよい。
主人公が大学に入るまでのエモーショナルな展開には期待しながら読んだのだが、入学後が尻窄みの感が否めない。憧れのマドンナに尾崎豊。しかも、いくらなんでも民主化闘争に「I LOVE YOU 中国」はないだろう。凡庸な学園ドラマのごとき展開につくづく嘆息した。
本来なら星一つにしたいところだが、ラストの、中国と日本との間で揺れるアイデンティティーの描写だけには辛うじて救われたので、星二つとしておく。
最後に、話をまた芥川賞に戻させて頂く。著者が在日中国人の方という事で、昨今の芥川賞に顕著なある種のコマーシャリズムを危惧していたのは私だけではないと思うが、この作品の受賞は、正に芥川賞が文学賞としての体を成さなくなった証左に見える。池澤夏樹氏が著者の受賞の回の一つ前の回でのノミネートの際に、落選理由を「芥川賞レベルの文章でない」と評したのが、私の記憶には鮮明に残っている。私は選考委員各位に問いたい。そもそも、人の文章というものは、たったの半年で格段に洗練されるものなのか?と。
申し訳ないが、率直な感想        時が滲む朝
テレビでご本人がしゃべっているのを聞いて、好感を持ったので読んでみた。
一番に思ったのは、「中学校の国語の教科書に載ってそうな平易な文章だな」ということ。
高校になると、文章だけでもこれより数段骨のある表現のものに、触れてきているはず。
ここを見ている皆さんは、最近の賞には何も期待しないよと言いつつ、実はその思いを覆されるような作品に出会えることを、どこかで待っているのではないだろうか。
少なくとも、私はそうだ。
本を読んで、これまでに出会ったことのない表現に出会いたい、すごい文章に打ちのめされてみたい…と、どこかで願っている。
そんなただ「感動」や「面白さ」以上の、「文学」との出会いを求めている方には、全くおすすめしない。
ただのお話としても、全く完成されていない。
来日して10何年だか20何年だか、母国語じゃない言語で小説を書こうというのは、素晴らしい。
素直に敬意を表したい。
けれども、ものを書くことがお金になるという道は、自分の母国ででも、このレベルではお話にならないのではないだろうか。
日本語そのものより、文学そのものに、もっともっと必死に向かって行って欲しい。
けりがつけれないけど、時が流れる        時が滲む朝
 天安門事件って、確かにあるんだけど、結局抽象的で何をどうなったらよかったのか、時代の流れで国や世界がどんどん変わっていく中で、さらにあやふやにさせられてしまった部分はがあるのかもしれない。そして、主人公もなんとなく達成感をかんじられないまま年を重ねていく。
 でもこの苦苦しさは、私も年を重ねるつれ、大なり小なりあり、なんかしんみりしました〜。
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著者の長所を見つけられたかも        金魚生活
芥川賞受賞作「時が滲む朝」に厳しいレビューを書いたが、こちらは楽しめた。
少なくとも、伝えようとしていることは伝わってくるし、主人公の感情の波が、こちらの心に小さな波紋くらいは投げかけても来る。
前半の中国での生活は、1ページに1箇所くらいの割りで、文法的に誤りではないけれども、日本語として違和感が拭えない言い回しが登場してくるためか、今ひとつ入り込めないでいたが、一転日本に来てからの話は本当に面白かった。
日本部分の方が、違和感を感じる部分も少なかったので、もしかして狙って書いているのかと思わないでもないが。
この主人公は50歳になるのだが、未だに綺麗で体型もスリムで、「日本」という異国への気後れも手伝ってか、控え目な様子に好感が持てる。
しかし一方、中国に残してきた「ただ自分を思ってくれているだけ」の同棲相手への物足りなさを表す言葉が、50にもなる女にしては幼な過ぎて、まるで20代の独身女性の述懐のようで、そこは日本語ネイティブでないことが気の毒な気になった。
きっとちょうどいい日本語が、見つからなかったのだろう…。
ただ全体として、この人独特のユーモアと感じられる部分や、あまり一般的ではないがギリギリ日本語として成立している新鮮な表現など、長所と認められる部分にも出会うことが出来たので、読んでよかったと思う。
すこし期待はずれかも        金魚生活
筒井康隆のレビューに引かれて読みましたが、私的には今一つでした。
普通の中国人の普通の感情を普通に書いている感じでなんの驚きも感動もないというのが正直な感想です。まあ数時間で読めるものなので軽い時間つぶしには良いと思いますが、期待して読むと裏切られる方も多いのではないでしょうか。若い方には良いのかも知れません。でも、ある程度人生経験のある方にはso what?という印象です。
ゆらゆら揺れる        金魚生活
カバー写真は蜷川実花さん。蜷川さんらしい、目を射るような鮮やかな色。
作品のなかで、主人公の玉玲が着ていたコートの色は、きっとこんな赤だったのだろうな。

中国という国の変化と、その中で生きてきた一庶民の玉玲の生活が興味深い。
玉玲は、レストランのロビーの大水槽で飼っている金魚の世話係だ。
徐々に金魚に情を移していく彼女、金魚のその時どきのようす、
それらが重なりあい、玉玲の生活が金魚と共に在るものになってゆく。
玉玲には娘に言えずにいる、亡夫の友人である同棲相手がいる。

日本へ留学し、そのまま就職、結婚した娘の初めての出産の手伝いのため
玉玲が仕事の休みを貰って、日本に来てからの話の動きがおもしろい。
あらゆることどもが初体験として、彼女を揺さぶり、心もとなくさせる。
ことばがわからない国での日常が、玉玲を自分に向き合わせる。
そして、娘からの“日本人男性との再婚”の勧めがあり、玉玲の心は揺れに揺れる。
五十歳。未亡人。これからの生活。一見、豊かで贅沢な国、日本。
楊さんはしかし、「森田」という日本に帰化した中国人の、自称セレブの知人を
配することで、経済的な豊かさが幸福をもたらすとは限らないことを描く。
金魚色のコートが、日本では異常なくらい浮いてしまう、その感覚、センスの違いを
玉玲は肌で感じざるを得ない。
お見合いの席での、漢詩のやりとりは切なかった。
しかし、金魚の刺繍の財布から、指輪を取り出すラストは、
ほんとうに映像的で忘れ難い印象を残す。

読むうち、「ん?」という感じで、少しばかり引っかかる言い回し、漢字の使い方なども
あるにはあったけれど、充分楽しめた。 
金魚色のハーフコートが…        金魚生活
日本で暮らす娘が日本で出産するのを機に、中国から来日した玉玲。夫に先立たれた玉玲は、夫の仲間だった周彬と、じつは中国で同棲しているのだが、娘には、なんとなく言えないでいる。日本に生活の基盤をおく娘に、日本人と再婚して、近くで暮らさないかと持ちかけられると、娘や孫のことも気になることだしと、周彬のことを言い出せないまま、お見合いを重ねてしまう。

玉玲がお見合いをした三人の日本人男性のタイプは、本当に三者三様で、しかも妙にリアリティーのある描写(たとえば、やたらと「ニーハオだもんな」とかいう)が多かったので、おもしろかった。でも何よりも心に残ったのは、周彬と彼にまつわる金魚色のハーフコートのエピソードとその扱いである。せつないし、痛かった。

楊逸の小説は、『ワンちゃん』『時が滲む朝』、そしてこの『金魚生活』と読み進めてきたが、今回の『金魚生活』が一番よかった。
楊さんらしい、楊さんならではの作品        金魚生活
「ワンちゃん」「時が滲む朝」に続く、楊 逸さん3作目。
序盤、玉玲の中国での生活の様子が綴られる。
経済開放によって、今まで勤めていた調味料を扱う店がレストランに変わり、生活も変わっていく。
そこで暮らす人々の性格や、価値観も良く伝わってきます。
中国の変化の様子ってこうだったんだ〜と、何となくしか知らなかったことが、庶民の目線から描かれるで良く解ります。

中盤以降は、日本で出産をする娘のために来日する玉玲の様子が描かれています。
言葉も全く解らず、生活習慣や経済の違いに驚き戸惑う玉玲。
日本人が、普通に感じていることが、他国の人にとっては、とても不思議であったり、馴染めなかったり。
このあたりが、とてもリアルに描かれているのは、実体験を持つ楊さんであるからこそでしょう。

ややたどたどしい日本語の部分もあり、楊さんらしい作品ではあります。
もっと流暢に綴れるようになったら、もっと書きたいことがあるのでしょうか。
それとも、そうなってしまったらが、楊さんらしさは、失われてしまうのでしょうか。
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女性として、国を越えて感じるものアリ        ワンちゃん
表題作「ワンちゃん」と「老処女」の二編。

軽い文体で、内容はなかなかグロテスク。一読しての、彼女のスタイルへの感想です。文体がまるであぶらとり紙のように軽くさらさらで、それ故ぐんぐん読み進められるんですが、何とも云えずモノ哀しい気分になる。
これはある程度年取った女に共通の感情が内包されているからでしょうか?
今時日本に暮らす女性の大部分が、女性性と若さという特権を良く理解し、それをうまく利用しているように感じます。
しかしそれが利用できなくなるいつかがくる。その”いつか”、今までのような扱いをしてもらえなくなり、嘲笑と同情の対象になる。
何となくそんなことを思いました。
しかし「老処女」は読んでいて哀しくなりましたね。
ああいう思考の人、絶対いるもん。
運命・・・しかし、ここは運命ではなく宿命としたほうが正しかったのではないかなとも感じました。
運命は自分で変えられるもの、宿命は定められた不変のもの、じゃなかったですっけ。

他の作品も読んでみたいと思わせる作家さんです。
そして、やっぱり中国と日本って、結構違うんだなあと思ったり。
一説によると、同じような容姿をして違うことをされるのが一番腹立つらしいです。
だから同じ人種間のほうが、差異によるトラブルが生じやすいとか。

文書におかしな所はあるけれど        ワンちゃん
しかし、この作者の目線はいい。
日本に物質文明で遅れをとってしまった中国。その中国では、まるで昭和に起きた
ような出来事が起こっている。その波をくぐり抜けて日本にやってきたワンちゃん。
果たして幸福になれたのか?
昔、日本から西洋へいくのが憧れだった時代があった。
幸福の青い鳥はどこにいるのか?
日本人がこの大不況の時代、今一度、自分自身に問いかけてみる必要がある質問に対して
ワンちゃんは答えを出してくれているのかもしれない。
老処女に体中痛くなる        ワンちゃん
この文章で芥川賞候補とは驚愕であるぅ〜。。。何も面白くない。
常に奔走するワンちゃん、、、とても哀れに思えた。ただ、お姑さんと仲良くやっている、
田舎に溶け込んでいる姿は微笑ましい。

それより、この本に収録されている「老処女」の方が、大変気になった。
つまらないを通り越して嫌悪感でいっぱいで、読むのをやめたい、やめたい、やめたいと
思いながら、苦痛で体中に痛みを感じながらも、根性で読んだ(笑)。
45歳で、処女で、男性との交際歴もなく、子宮筋腫だというのに手術も受けず、
目が合ったというだけの先生に、「白馬の王子様」「運命の人」だと思い込み、
思い込むのは勝手だが、相手も、自分に運命を感じているという全く根拠のない自信、
思い込み、そして、まだこれからでも子供を産もうと、産めると思ってる。
(誤解しないで頂きたいが、45歳だから子供が産めないというのではなく、
なんの経験もなしに、しかも筋腫の手術も放置しといて、決まった相手がいるわけでも
ないのに、という意味である)。
あきれた話である。こんなバカバカしい話につき合わされているのがとても苦痛だった。
真剣に「相手も運命感じてるの」などという相談を受けた主人公のお友達、否定すると
「何故信じてくれないの?!」って、電話もしたことがなければ、デートもした事も
誘われたこともないのに、目があったというだけで、相手も運命感じてるなんて話を
誰が相手にしようか…?
私の知人でも、この根拠のない思い込みをする女性がかつていたので、余計に
気持ち悪くなった。

これは、ユーモアとして笑い飛ばさなければいけないのかね…?無理だな…。
しかし、嫌悪感という存在で強く印象に残った作品である(不名誉ながら…)(苦笑)。
ワンちゃんの懐の深さ        ワンちゃん
芥川賞を受賞した著者の、(受賞前の)最初の作品。
芥川賞受賞作は、天安門事件という中国の歴史的な事件をとりいれ、しかも主人公は男に設定しているが、ワンちゃんのほうが、主人公も女で、中国での生活に絶望して、日本の嫁不足のさえない男性に嫁いできた再婚女性ということで、より著者の心情には近いものであると思われます。
この作品には、ワンちゃんの運命は、決して恵ぐまれていません。中国男性との最初の結婚はやぶれ、日本人の再婚相手とも心が通っていない。しかし、そんな中、ワンちゃんは、嫁の来てのない日本人男性に中国花嫁をあっせんすることをビジネスとして、たくましく生き抜きます。
日本人とのしゅうととの心の通い合い、日本人の別の男性との淡い恋などもあります。
また、中国の田舎(といっていいと思います)の、日本に行こうとする薄幸の女性たちのおかれている事情なども描かれ、興味ふかいです。
著者は、日本で中国人向け新聞社に勤め、お茶の水女子大で日本語を学んだ、知的な女性で、日本で結婚し子供もいるようです。その点は、ワンちゃん=著者ではありませんが、著者の、人間たちの幸不幸を、長い時間のなかで見守って、受け入れる懐の深さというか、泰然とした優しい風格といったものが、この小説の最大の魅力のように思えます。
日本語の力とか、小説技法では、「同人誌並み」との批判もありますが、著者の持つ可能性が散りばめられた、興味深い小品だと思います。
著者の漢語の教養と、日本語のまじった、面白い比喩なども読んでいて、興味深いものがあります。
両国の文化交流を活性化して日中を結ぶ架け橋になれば良いなと思います。        ワンちゃん
日本で暮らす中国人女性が日本語で書いて初めて文學界新人賞を受賞し、芥川賞候補にもなった表題作他全2編の中編小説を収めた作品集です。著者は1987年に留学生として来日されてから20年になられ、細かい部分では間違いもあるらしいですが私は全然気にならず非常に文章が達者だなという感想を持ちました。2編の作品に共通するのは、著者の境遇と同じく中国から日本へ移住した女性像を描いている点です。世代は変わり過去の戦争の影など微塵も感じられず自然に両国間で縁談によって結ばれる男女の姿が描かれています。面白く感じたのは、中国の名前に託した親から子への思いで、王愛勤は「よく働く」の意味で、万時嬉には「何時の時でも喜ぶ」という願いが込められています。表題作『ワンちゃん』:中国で結婚に失敗して離婚したがお金目当てにつきまとう前夫から逃げるように日本の四国の農村に嫁いで暮らすワンちゃんは、老齢の姑の面倒を見ながら、中国で日中のお見合いツアーを企画する。日本でも無口で感情を出さない夫と暮らす羽目になったワンちゃんは、男運が悪いとしかいいようがなく、性分なのか他人の幸福の縁を取り持つ役回りとなるのだ。『老処女』:二十五歳で日本の大学に入学し、ひたすら博士号を目指して苦労して果たせず何時の間にか二十年が経とうとしている万時嬉は老処女とあだ名されるオールド・ミスである。一時は否定していた家庭と学問の道を両立させた旧友と再会して時嬉は一転して羨ましくなり、お化粧で変身し日本のバツイチの人気中年教師に狙いを定めて恋の道に走る。自分には五のつく年に幸運が訪れるという信念を胸に抱きながら。
ワンちゃんと時嬉はタイプが違いますが、それぞれ信念を持って生きてきた逞しさがありますので、物語が終わってもきっと挫けずに頑張って行くでしょう。願わくば著者のユーモラスな小説が口火となって両国の文化交流が活性化し日中を結ぶ架け橋になれば良いなと思います。
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